去る2月23日(土)に我孫子のアビィホールで、嘉納治五郎から「ジェンダー」を学ぶ と銘打った講座を聴いてきました。
講師は筑波大学教授、日本オリンピック委員会の理事も務める山口香氏です。
103自身は柔道に興味があるわけでも、話題(?)のドラマをみているわけでもないのですが、やはり我孫子ゆかりの人物でかつ世界的にも著名な嘉納治五郎に関するお話を聞いてみたいという興味から聴講希望しました。
といっても今回の第2回と3月9日に開催される第4回の「嘉納治五郎から「平和」を学ぶ」のみしか聴講できないのですが。
講座の概要はこうだ。
1.嘉納治五郎は日本柔道界で男子のみの試合しかなかった時代に女子柔道を始めた。
2.山口氏自身、日本女子柔道の試合解禁の時代に立ち会った。
3.この40年で日本女子柔道界の選手層は急激に充実している。
4.しかし、嘉納自身が危惧していた「選手を育てるには指導者の充実が必須」という目標は達していない。
【嘉納治五郎、女子選手を受け入れる!】
1882年に講道館創設後、1893年に女子の受け入れを開始する。ただし、治五郎は即座に女子選手を養成するのではなく、手始めに『女子選手を指導する人材育成に着手』する。
当時、女性の社会進出自体一般的ではなく、柔道という武道を健康に、安全に行うことが出来るのかを検証する。食事内容の改善により身体の適正化を図り、かつ定期的な健康診断を行うことにより科学的に適正化を判断することに注力したという。そのプログラムの中には富士登山も含まれていたという。
今でこそ一流アスリートは食事内容の厳格な管理による体力の向上を当たり前のように行っているが、当時(およそ100年以上前!)女子に対して先進的な管理を考えた治五郎には頭が下がる。
果たして男子選手に対してそのような管理を行っていたのかどうか、当時はまだまだ精神論的な戦い方だったのではないか?とも思ったが、最後の質疑応答時には質問者が多く指名されなかったので分からない。
1904年に宮川女史が女子選手の指導を開始し、1926年に講道館に女子部が発足。
この間20年、女子柔道を始めるための指導者づくりを行っていたというのが興味深い。
【山口氏の女子選手としての開花】
その後およそ50年間、日本では女子柔道の試合は解禁されなかった。
理由は前述の通り「女子選手の指導者を育成していた」から。
特に女子入門者に対しては戸籍情報開示により出自や面接等、指導者として適切かどうかの厳しい入門条件が課せられたという。
1978年に日本で女子柔道の試合開催が解禁されたそうだが、当時中学生だった山口氏が地元の大会に参加したが、大人に混ざって地方大会で優勝。
山口氏いわく「それまで試合をしていなかった(道場へ入門し練習はしていた)女子選手は戦い方を知らなかった」とのこと。つまり礼節を重んじることに教育理念を置き、試合に勝つための練習はしてこなかったとのこと。小学生のころから男子に混ざって試合をしていた山口氏は「勝つためのずるさ」も知っていたため勝ち進んだとのこと。
それが彼女を国際大会で好成績を収める原動力になったようです。
【選手層の充実】
女子選手の試合が解禁されてから競技人口は増えたのでしょうが、女子柔道がオリンピックでメダルをとれるようになったのはつい最近ですね。
これには70年代当時、女子選手が「試合に勝つための柔道をしていなかった」ことが大きく影響しているようです。
言い方を変えればつい最近になってから国際的な大舞台で勝つための狡猾さ(と精神的な)強さを得るようになってきたということか。
ちなみに、治五郎が「女子柔道を普及させるためにはその指導者を育成する必要がある」と考えたのが100年前であるにも関わらず、日本ではなかなか女子選手が国際試合で勝てなかった。
実は1978年当時、女子で試合が解禁されたのは日本柔道協会が積極的に推進したのではなく、世界レベルで(国際柔道協会で)世界各地で女子柔道試合が開催されるようになってきたため、日本でも解禁せざるを得なかったというのが実際のところのようです。
治五郎先生の理念には遠く及ばず・・・
【指導者の育成】
山口氏も危惧しているのは、21世紀の現代でも女子柔道の指導者が圧倒的に不足していること。
ただでさえスポーツ現場でのハラスメント問題が取りざたされる現在、確かに指導者が男性だったりするとそれだけでセクハラの可能性が格段に上がるわけで。
もちろん同性ならハラスメントは起こらないわけではないのですが・・・
そう考えると、第1線を退いた選手が指導者ではなくアイスクリームを売るのはどうかと思いますが・・・
あ、独り言がこぼれちゃいました。
講演後、質疑応答ではちょっと的外れな質問もあったりしましたが、山口氏の基本は『嘉納治五郎先生の遺志(言葉ではなく)を受け継ぎ、女子柔道の普及のためには指導者を育成する』ことが大切だと思っているようです。
ただ、「ジェンダー」というキーワードが使われていたのですが、普通に「女子柔道を考える」という副題で良いのでは?と思いました。流行りの言葉を使えばいいということではないでしょう。
でも全く興味のない業界のことでもわかりやすくお話を聞くと面白いですね。
次回、「平和」を学ぶ の講演も楽しみです。
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